2008年05月08日

隠された記憶

ハネケの作品をちゃんと見てみようと思ってたら、タイミングよくBSで「隠された記憶」をやっていた。

自分たちの住まいを撮影したビデオテープが夫婦のもとに届けられる。。というプロットに、「ロストハイウェイ」のぱくりかよ、というつっこみよりはむしろ、このご時勢いまだにカセットテープかよ、という思いを強く感じた冒頭だったが、そんなどうでもいいつっこみもすぐに忘れてしまう内容の濃さだった。

残忍なシーンが何度もあるわけではないのにやたら濃密なテンション。というか、あの鶏のアレとアルジェリア親父のアレと、キラーな描写を2発に抑え、あとはあえて暴力シーンを過剰に乱用せずひたすら静謐なカットに終始することで、通常のシーンでもあれだけ張り詰めた空気を出すことに成功していると思う。こういう空気の演出というのは映画芸術ならでは。

事件の真相についてはウェブで調べるといろいろ推論・議論が出てくるのであえてふれないが、ここここが参考になった。
私自身は最後の一見何の変哲もないカットに何が写ってるか分からなかったので、へぇーって感じ。
ただ、犯人はこいつ(ら)かと大体納得したとしても妙な後味の悪さが起こる。それは主人公の嘘をつくやましさによって再構築された視点からフィルタリングされた事件を見ているがために、提示されたままのことが真相だと割り切れない残余感が最後まで消えないことによる。このへんの気持ち悪さを感じさせる件をひとつ。アルジェ親父のアレだけは、主人公以外の人物にビデオとして届けられない。これは、かなり主人公のファンタズム的な解釈につながるヒントになりうるかも。

ストーカー的な事件を題材にした映画はくさるほどあるが、たいていの場合単なる幼稚なフリークス趣味に終わることが多い中、この作品はそうした事件の裏に潜む心理の綾を複雑緻密に描いていて、単なるサイコスリラーで終わらせず、鑑賞を終えた後でも観客に問題を突きつけ続ける異様な力がある。

「ピアニスト」「ファニー・ゲーム」と見たが、いまのところこれが一番好きかも。映画は最近興味薄れつつあるのですが、再びシネフィル道へ揺り戻してくれる契機を与えてくれそうなクオリティの高い作品でした。



posted by onion_slice at 00:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | ヨーロッパ
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